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故郷の「馬の町」で挑む、畏敬の想いを込めた"国産の馬革づくり" by 岩井巽さん


「withuma.」vol.56 岩井巽さん


Profile

お名前:岩井巽さん

年齢:30歳

居住地:青森県五戸町

 

第56回は、青森県五戸町で馬革づくりに取り組む、岩井巽さんです!

いったいどのような「withuma.」を送っていらっしゃるのでしょうか?

 


岩井巽さんの「withuma.」

写真:本人提供

2022年に故郷・青森県五戸町(ごのへまち)にUターンし、馬肉専門の精肉店様から馬の皮を譲り受けてレザーにする活動を始めました。

自身がこれまでデザイナーとして東北の伝統工芸や風習を広げる活動に携わってきた経験もあり、故郷の文化を改めて調べていく中で、馬との関係が深い町だと知りました。

使われていなかった馬の皮でものづくりをしてみたいと思い、牧場や精肉店を訪ねたことがきっかけで「五分|GOBU」を立ち上げました。


写真:本人提供


「命から生まれた革」であることを大事にし、単なる材料ではなく、馬への畏敬の想いを込めた活動にしたいです。


写真:本人提供


五戸町には馬に感謝する神社や祠が10箇所以上あり、中でも「馬霊」の文字が彫られた石碑を発見した時にはとても感動しました。

動物から「動き」が失われて、はじめて「物」として人の暮らしの側におけることに感謝して活動を続けたいと考えています。


写真:本人提供


今後の目標としましては、かつて「馬の町」と呼ばれていた五戸町の馬文化を発信し、この土地に根付く「五分」の精神性を掘り下げていきたいです。

現在は馬肉産業が主流の五戸町ですが、将来的には馬肉や馬革だけではない、馬と共生する仕組みも考えていきたいです。

 

競馬でも青森県産馬を見かけることがあり、八戸でもセリが行われるなど、馬文化を感じます。

岩井さんが活動する五戸町は、移動手段が自動車に変わったことで現在は馬肉産業が中心となっているのですね。


私は奈良県に住んでいて、県内の三宅町は牛革でつくるグローブの生産量が日本一位です。

小学生の頃から県の文化・産業を学ぶ中で、皮革産業についても触れる機会が多く、皮革は「人類最古のリサイクル品」と、その当時耳にしたことがあります。

岩井さんは、馬肉屋さんで余ってしまう馬革に着目し、五戸のスピリットを受け継いだ“ものづくり”をされているのですね。

 

岩井巽さんの「Loveuma.」

写真:本人提供


馬の魅力と感じるところは、馬を知ることで、鏡のように「人」を知ることができるところです。

農耕馬・軍馬・神事に用いられる馬など、時代とともに馬が人の歴史を写し出しているように思います。

五戸町の隣市・十和田市には馬にまつわる膨大な資料が展示されている博物館があり、そこで馬と人の関係を深く知ることができました。


お気に入りの馬は、乗馬経験や馬と触れ合う経験がそこまで多くはないので、バイネームで挙げることはできないのですが、重種馬に惹かれます。

軍馬や輓馬として活躍し、馬肉・馬革としても主要の馬でありながら、気性が穏やかでじっと佇んでいるところに何か物語性を感じます。

彼らは私にとって「馬と人との関係を考えさせられる存在」です。

 

Withuma.に登場いただいた皆様も、馬は人の内面を写し出す“鏡”だと、よく仰っています。

そして岩井さんの仰るように、歴史も写し出していますよね。

今の時代は競馬が社会に求められているので、国内にいる馬の多くがサラブレッドになっているのも事実です。


私にとって重種馬は身近な存在とは言い難いですが、北海道で何度か対面する機会がありました。

その際、サラブレッドにはない風格と迫力に圧倒された記憶があります。


日本在来馬に重種馬はいませんが、北海道の開拓や軍馬として日本を支えてきた日本輓系種などがいますよね。

海外から輸入された重種馬の混血を重ねて改良した半血種や日本輓系種ですが、今は「ばんえい競馬」で活躍する「ばん馬」として、競馬産業を支えています。


時代背景と共に関わり方を変えながら私たちを支えてくれる馬。

長い歴史の中で紡いできた物語を感じました。

 

引退馬問題について

写真:本人提供


色々な考え方があると思いますが、五戸町の牧場では、軽種馬も食肉に適すように育てていると伺いました。

経済の流れなどに抗えない部分も大きい中で、今できること、今よりちょっとでも良い状況になりそうな事柄から一つずつ取り組んでいく姿勢が大事だと思っています。

 

五戸では軽種馬の馬肉産業も行われているのですね。

Loveumagazine『生かすことが幸せなのか』で取材した家畜商のXさんは、競馬から上がってきたサラブレッドを食肉にする業者さんですが、サシが入らない赤身であることが特徴だと仰っていました。


Loveumagazine「生かすことが幸せなのか」家畜商・X 2/3


上述の記事でも書かれているような現実的な経済性なども鑑みた上で、より良い道を探して行くことが大切なのかもしれません。


そして仰る通り、少しずつ人も馬も幸せになれる道を探して取り組んでいくことが大切だと感じました。


岩井さんが代表を務められている「GOBU」について、ご興味のある方はこちらから是非チェックしてください。

 

 

今回は、青森県五戸町で馬革づくりに取り組む、岩井巽さんの「withuma.」を伺いました!

毎週定期更新してまいりますので、次回もよろしくお願いいたします!


 

「withuma.」では、馬にまつわる活動や、その思いについて発信していただける方を募集しております。


リモート取材は一切なく、専用フォームからアンケートにお答えいただくと、その内容が記事になります。


今後も「withuma.」を通して、引退馬問題前進の一助となれるよう、微力ながら馬事産業・文化に携わる人を発信していきますので、是非皆さまからのご応募をお待ちしております!


▼詳細は下記バナーをクリック!


 

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協力:岩井巽さん 取材・文:片川 晴喜 編集:平林 健一 著作:Creem Pan

 


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3 Comments


HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
Jun 20, 2023

青森県出身でありながら「馬と触れ合う経験がそこまで多くはないので」とおっしゃる岩井さんのために、青森のお馬トリビアを少々。(全然ためにならなかったら、ごめんなさい🙏🏻)


*五戸は古くから名馬の里として知られ、寛政年間には五戸代官所支配7,153頭を数えたとか。当時の戸数が4,061戸というから、1戸あたり平均1.76頭飼育していたことになります。(「一家に一頭」馬がいるのが当たり前の生活様式を復活させたいですね。🏡🐴)


*『平家物語』に登場する名馬〈池月(いけづき)〉は七戸の牧(まき)の産、〈磨墨(するすみ)〉は三戸住谷野の牧の産。当時は「南部駒」が武士に人気の青森発高級ブランド馬でした。


*白毛競走馬による日本初勝利を達成したのは五戸町生まれのハクホウクン号(サラ系)。1997年12月30日、大井競馬場にて未勝利8戦目での勝ち上がり。その後、白毛による2勝目を上げたのはハクホウクンの全妹ホワイトワンダー。国内に白毛馬が8頭しかいなかった時代に、そのうち4頭が五戸町産でした。


*その他、青森県産で競馬界に名の知れた存在といえば、古くはトキツカゼ、マツミドリ、トサミドリ、オートキツ、ヒカルメイジ、コマツヒカリ、オンスロート、フェアーウイン。。。そして “TTG” の一角を担ったグリーングラス、オリヴィエ・ペリエを背に7番人気で阪神ジュベナイルフィリーズを勝ったタムロチェリー、G1・9勝で通算勝利数2,300超えのシバタヨシトミ、ディープスカイ産駒のダート王キョウエイギアなどでしょうか?


(↑)この中には56歳で現役続行中のリビング・レジェンドもいるので、競馬場に行けば今も達者で活躍している姿を見ることができます。🤭


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HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
Jun 19, 2023

>現在は馬肉産業が主流の五戸町ですが、将来的には馬肉や馬革だけではない、馬と共生する仕組みも考えていきたいです。


東北の馬文化は、人と馬が苦楽を共にした、文字どおり「人馬一体」の生活史の中で育まれてきたものだと思います。その伝統を大切に、より良い共生の歴史を新たにつくって行かれますように! (ソメスサドルの「お庭」には引退馬のアッシュゴールドやイーグルカフェがいます。GOBU's GARDENでこういう共生もあり?)


>重種馬に惹かれます。


岩手のチャグチャグ馬コがパリでシャンゼリゼ・デビュー(🇫🇷🎉😮❗️)を果たしたとき、華麗な装束を着けて協力したのは現地フランスのペルシュロンたちでした。

この品種については、威風堂々の軍馬として戦場に送られた歴史も、馬搬・馬耕や輓曳という用途も、優しい大きな馬に寄せる家族の思いも、岩手の人たちにとってはなじみ深いものだったはずです。きっと五戸の皆様も共感されるのではないでしょうか?


重種馬は哀しいほど穏やかな澄んだ眼をしている。🐴✨

いつも静かに何かを耐えているように見える。🐴✨✨✨


内心はおやつ🥕を抜かれて憤懣やる方ないのかもしれないし、単にゴハンを待ちながら居眠りしているだけかもしれないけれど、そういう散文的な憶測を一切寄せつけないほど豊かな物語性を感じさせる(お得な)ブリードだと私も思います。☺️


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HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
Jun 19, 2023

馬に関係ない前置きから。

GOBUのサイトで、岩井さんの命名原因(?)となった土方巽さんのお名前を久しぶりに目にしました。昔々、ドイツの劇場関係者のために暗黒舞踏の資料を翻訳したことがあります。

私は革新者だった土方さん個人には敬意を惜しみませんが、彼の舞踏パフォーマンスについては「悪ふざけ」と「稀有の美哲学」(そう、「美哲学」)の五分五分評価をしています。

(ホントに関係なかった☝️😅)


さて、革の話。

薄幸の一口馬主の我が叔父は、ベルトも財布も鞄もコードバン。洋服ブラシは馬毛。

大切に大切に、何年も使っています。

私は10年愛用のブックカバーが馬革製です。以前はブライドルレザー(死ぬほど硬い牛革)のも持っていましたが、あまりに硬くてフラップをたたんだ時の無愛想なツッパリ感が手になじまず、気がつけばコードバンか鹿革のカバーのみ手元に残していました。

よろしければブックカバーも作っていただきたいです。


羽毛、皮、角、牙、たてがみ、種によっては歯や尾や骨に至るまで。

動物がその生を終えてこの世に遺した「モノ」に、再び人のそばで愛重されるチャンスを与える仕事って、芸術活動の濫觴ですね。(☜「らんしょう」は最近やっと読めるようになったから使いたい😝)

自ら生きるために他の生き物を殺すのが人間の宿命だとしても、いただいた命への償いと敬いの心は何らかの形で表したい。生きていた時の美しさや気高さを後々まで記憶に留めたい。

人類共通のそんな欲求から、様々な動物由来の優れた工芸品が各地に誕生したのだと思います。


丹念に皮をなめす作業からそれを加工して一つの作品に仕上げるまでの工程は、見ようによってはまるで現代版の蘇りの儀式のよう。モノから新しい「命の器」が形作られ、器を満たす魂が再び注ぎ込まれ....職人さんには祭司の献身と没入が求められるのではないかとさえ思いますね。

(作業たけなわのヴォルピ社の工房なんか見ていると、そう思う)


青森の歴史ある馬の町からどんな作品が生まれるのか、非常に楽しみです。

無駄になる命など一つもないことを、デザインの力で世に示してください!


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