キングヘイローのおかげで就職!? 執筆、台湾競馬、馬主、引退馬支援…盛り沢山の馬人生 by ホリ・カケルさん
「withuma.」vol.22 ホリ・カケルさん
Profile
お名前:ホリ・カケルさん
居住地:東京都
Twitter:@hori_uma
第22回は、ホリ・カケルさん、競馬関連書籍などの執筆・編集をされている男性です!
いったいどのような「withuma.」を送っていらっしゃるのでしょうか?
ホリ・カケルさんの「withuma.」
フリーライター、編集者として競馬関連書籍の執筆や編集を行っています。
「POGの王道」(双葉社)など、POG(ペーパーオーナーゲーム)に関する書籍やサイトのほか、引退競走馬ファンクラブTCCさんの会報なども執筆させていただいています。
2020年、21年には月刊「優駿」の「優駿エッセイ賞」に入賞し、競馬に関するコラムの執筆などもしています。
これらの活動と並行して、戦前の台湾競馬史研究もライフワークとして行っています。
競馬を好きになったのは、大学の友人に連れられて東京競馬場に行ったことがきっかけです。
サラブレッドの大きさやレースの迫力に圧倒され、それから毎週のように競馬をするようになりました。
当時好きだった馬はキングヘイローで、グラスワンダーやスペシャルウィークが好きな友人相手に「絶対負けない!」といつも口論してました。
大学卒業後は有線放送会社や出版社で働き、競馬とはあまり関係ない仕事をしました。
出版社を辞めた時に、編集者の先輩が「競馬の本を書けば?」と後押ししてくれて、馬券必勝法の企画を出したら採用されて、何冊か本を書きました。
そこそこ売れたのは1冊だけでしたが(笑)、競馬の仕事ができるのが嬉しかったですね。
その後、丹下日出夫さんの書籍を手伝うお話しをいただき、POG書籍の仕事をするようになりました。
双葉社さんの「POGの王道」は創刊からずっと携わらせていただいています。
POGの王道(©双葉社)
POGはデビュー前の2歳馬を分析して、デビュー後(特にクラシック)での活躍を予想するゲーム。
引退競走馬支援は文字通り、競走馬としての生活を終えた馬たちの第二の馬生を支援する活動。
競走馬としての「スタート」と「ゴール」を見届ける二つの仕事をさせていただいているので、馬の生涯について以前よりも深く考えるようになりました。
出資馬や好きな馬など、応援したい馬ももちろんいますし、書籍で取り上げた馬にはぜひ頑張ってもらいたいという気持ちはあります。
でもそれだけでなく、すべての馬が無事にデビューして競走馬生活を全うし、その後もより良い馬生を過ごしてほしいという思いは常に抱いていますね。
年々、POGや一口馬主など、デビュー前の競走馬について関心を持つ方が増えているのを実感します。
またここ数年は、引退競走馬への関心も特に高まってきています。
今後の目標としては、競走馬の「スタート」と「ゴール」、そして引退後の馬生に興味を持つ方のために、今後もいろんな形で情報や魅力を紹介・発信できればと考えています。
台湾競馬史については、単なる研究でなく何か役に立つ形で発表できればと準備を進めています。
日本では近代競馬が始まってから現在まで、160年間にわたり競馬が続いていますが、台湾はわずか15年ほどで中止に追い込まれました。
一つの地域で競馬がどのように始まり、幕を閉じたのか。
突然の競馬の廃止で、馬産や人々の生活がどう変わったのか。
こうした歴史について書き残していきたいです。
台北競馬場跡、現在は国防部管轄の大学となっている(提供:ホリ・カケルさん)
POG、面白いですよね。実は私もやっております。
昔からの競馬仲間とオンラインで集まり、前年の順位になぞらえて、プロ野球ドラフトの様に1位指名は抽選、2位以降は逆ウェーバー制で獲得していきます。
競馬ファンなら一度は憧れる馬主ですが、なかなか手が届くところではありません。
ただPOGは、「馬主や一口馬主は、私には敷居が高い」という方でも、無料で自分の馬のようにレースを観て応援できますので、少し違う角度から競馬を楽しむにはとてもいい入り口だと思います!
なお現在、JRA-VANが主催する国内最大規模のPOGは、参加者が10万人を超えているようです。
一口馬主のクラブ延べ会員が7万人以上と言われていますので、より広い層の競馬ファンに楽しまれていることが分かります。
また、台湾競馬史の研究は、とても興味深いです。
日本統治時代には、日露戦争で割譲された南樺太や、大日本帝国の傀儡国であった満州国でも、競馬が行われていました。
そして、台湾競馬もそうですが、日本統治下の諸地域(特に大陸方面)における競馬の発展は、軍馬育成のための馬匹改良としての背景を持っていたそうです。
大陸戦線では、長距離兵站と戦争長期化による深刻な馬不足と、露軍との戦闘において、優秀なコサック騎兵に苦戦を強いられていた背景もあり、事態を危惧した明治天皇によって、馬匹改良の勅諚(ちょくじょう)が出され、馬匹改良事業は国家の一大事業として推進されていました。
近代日本戦史と馬匹改良については、以前読んだ「競馬の文化史」(本村凌二著)に詳しく書いてあります。
また、台湾競馬史については、ホリ・カケルさん自ら執筆された記事がありますので、気になる方はぜひご一読ください👇
ホリ・カケルさんの「Loveuma.」
競馬にのめり込み始めた当初は、競走馬の雄大さやレースの迫力が最も大きな魅力だったように思います。
競馬を続けるうちに、それぞれの馬に歴史や血統背景があることを知り、各馬のこうしたドラマにも魅力を感じるようになりました。
さらに、一口馬主や引退競走馬支援、乗馬をするようになり、いろんな馬と触れ合うと、どの馬も外見や個性がさまざまで、それぞれが違った愛らしさを持つと思うようになりました。
結局、全部好きですね。どの馬も存在自体が尊い(笑)。
だから牧場や競馬場などでいろんな馬を見ると、ずっとニコニコしています。
お気に入りの馬は多すぎて選ぶのが大変なんですが、まず挙げたいのはキングヘイローですね。
競馬を始めた頃、友人が「競馬をやるなら好きな馬を1頭決めて、その馬をずっと応援した方がいいよ」と言ってくれて、その日のメインレースだった東スポ杯3歳S(当時)をキングヘイローが強い勝ち方をしたので、「よし、来年のクラシックはこの馬を追いかけよう」って決めましたね。
その後の成績はご存じの通り、三冠どころか重賞もなかなか勝てなくて、ずっと悔しい思いをしたんですが、それでも諦めずに応援し続けました。
初めてGⅠ(高松宮記念)を勝った時は号泣しましたね。
ちょうど就職する時期だったので、自分も結果が出なくても頑張り抜こうと決意できました。
ラストランの有馬記念も忘れられないレースです。
産駒の活躍馬は多い方ではなかったのですが、母父としてもピクシーナイトやイクイノックス、ディープボンドなどの活躍馬を出しているのは嬉しいですね。
一口馬主や地方馬主をやっていますので、出資した馬はもちろんみんなお気に入りです。
各馬のレポートを拝見すると、成長過程における物語や、育成や調教に携わっている方々の苦労なども伝わってきて、応援に一層力が入りますね。
現在、大井で走っているウバリという2歳牝馬に出資しているのですが、生後3日目に膀胱裂傷で開腹手術をして1歳の夏に350kgほどしかなかったんです。
それが2歳の6月に427kgまで増えて、デビュー戦で2着になった時は込み上げるものがありましたね。
2戦目で初勝利しましたが、元気に走っている姿を見るだけで嬉しくなります。
出資馬ウバリ号
競走馬が持つ力は本当に偉大だと思います。
馬が人を魅せることには、もちろんカッコよさや力強さ、美しさという表面的な部分も要素としてありますが、なんといってもその馬が持っているドラマこそ、我々が惹きつけられる大きな魅力であると感じます。
以前、この記事と同じくLoveuma.に掲載中の、Loveumagazine「引退馬を事業で生かす」で、TCC Japan代表取締役の山本高之さんが、
「なぜメンタルヘルスケアに可能性が高いかというと、1頭1頭の馬自身にドラマがあるじゃないですか。競走馬として生まれ、走ってきた中にストーリーがあって、多くの人がそれに感動したり熱狂したりして、馬を応援していて。馬が引退した後もそのドラマを引き継いで、人間とともに活躍できるのはメンタルヘルスケアの分野なのかなと思っているんです」
と仰っていたように、こういった馬の持つドラマが、私たちに勇気や希望を与えてくれるのだと思います。
ホリ・カケルさんの、キングヘイローが苦節を乗り越え、悲願の初GⅠタイトルを獲得する姿が、ご自身の難航していた就職活動を鼓舞する力になったというお話も、まさにその代表例であると、お話を聞いて感じたところでした。
引退馬問題について
引退競走馬支援に取り組むようになったのは、二つの出来事がきっかけです。
一つ目は、現役時代に大好きだったストリートキャップが引退してTCCホースになったことです。
それまでは引退馬支援と聞いても、ハードルが高そうな印象でしたが、月数千円ほどでキャップの一口オーナーになれると知り、すぐにTCCさん入会しました。
実際に入ってみると、イメージとは全然違いましたね。
引退してからの様子がホームページでわかりますし、会いに行ったり、グッズを購入することも支援につながるので、楽しみながら応援しています。
ストリートキャップ
もう一つは、以前、一口馬主で出資していたガトーブリランテが引退した時に、現在のオーナーさんからご連絡いただいたことですね。
当時繋養されていた、ときがわホースケアガーデンさんに伺ったことで、養老牧場やそこにいる馬について学ぶことができました。
また、ガトーブリランテを通じて多くの方と知り合うことができ、今でも仲良く交流させていただいています。
このほか、ふるさと納税やTCCさんのクラファンに参加したり、会うことが可能な馬に会いに行ったりして、「自分にできることをできる形で」取り組んでいます。
ガトーブリランテ
馬は昔から、人間の移動や輸送、農作業などを助けてくれる身近な存在でしたので、家族の一員として飼っている家も多くありました。
100年前(1922年)のデータを見ると、日本国内に約150万頭の馬がいて、毎年11万頭が生産されていました(農林省「馬政統計」より)。
2018年の国内総飼養頭数が約76,000頭(農水省データより)ですから、規模が全然違いますね。 時代とともに役目も変わり、競馬や乗馬をしない人にとって、身近な動物ではなくなったかもしれませんが、こうした方々が気軽に馬と触れ合える機会や場所が増えれば、もっと多くの人が馬の魅力を感じるようになり、引退競走馬が働く機会も増えるのではないかと思います。
個人レベルでは「自分にできることをできる形で」引き続きやっていきたいです。
馬の存在と魅力について語って仲間を増やしていくことが、より多くの馬を救うことにつながると信じています。
いつか馬を飼ってみたいという夢はありますね。
自宅で飼って、近所を散歩したいです。
クリアしなきゃいけないことも多いのですぐには無理ですが、一つの夢として持ち続けていきたいと思っています。
私も引退馬支援の存在を知った当初は、例えば里親制度であれば、一口馬主と同等のお金がいるというイメージで、金銭的に余裕のある方ができることだと思っていました。
しかし月額わずか1,000円そこらからでも支援出来ることを知り、アルバイトを始めてすぐに引退場支援団体に入会しました。
現役時代に応援していた馬の余生を、小額からでも金銭面で支援できるのは、競馬ファンとしてとてもありがたい制度ですよね。
最近、withumaに参加いただく方から、「ときがわホースガーデン」さんの名前を耳にすることが多いです。
なにか不思議な力にいざなわれているのでしょうか(笑)
ご縁を感じますので、そう遠くないうちに訪問してみようと考えています!
また、国内の馬の飼養頭数に関する統計を上げて頂いていますが、おっしゃる通り、馬産規模のレベルが桁違いですよね。
時代の流れとともに、農耕や軍用を目的として生産されていた馬が大幅に減少し、競走馬の生産だけが今日では主体となって残っているわけですね。
今さら、すべての乗用車や農耕重機が馬に変わることはありませんが、それでも馬であることの利点というのは沢山存在します。
その一例として、以前、JRAが後援している馬の利活用に関するイベントに参加した際に、一流ワイナリーのブドウ畑に関する話を聞きました。
トラクターで行う作業では、その重さによって土が踏み固められてしまい、土壌中の微生物への悪影響や、ブドウの根への適度な空気の供給が妨げられる可能性があるが、これを馬耕に変えることで、土がふっくらとする。
さらには、堆肥によって土壌が豊かになり、美味しいワインを作るのに最適なブドウが出来上がるそうです。
ガソリンも使わないですから、SDGsの観点からも、人にも地球にも優しいですよね。
日本でも馬を用いたワイン造りを行っている方がいらっしゃるようで、馬の利活用の新たな可能性を感じました。
今回は、フリーライターとして競馬関連書籍の執筆や、台湾競馬史の研究、さらには引退馬支援も積極的に行われている、ホリ・カケルさんの「withuma.」を伺いました!
毎週定期更新してまいりますので、次回もよろしくお願いいたします!
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協力:ホリ・カケルさん 取材・文:片川 晴喜 編集:平本 淳也 著作:Creem Pan
台湾競馬史に興味をお持ちなら、以下のペーパーが参考になるかもしれませんよ。(既読だったらごめんなさい)
(1)『近代日本の畜産「雑種化黄金期」と馬匹改良 ー 1896~1935年の馬政/畜産 ー 』(岡﨑滋樹)
(2)『植民地畜産部門から再考する戦前昭和期の資源増産計画 ー 台湾馬政計画(1936~1945年)を中心に ー 』(岡﨑滋樹)
(3)『帝国日本の軍馬政策と馬生産・利用・流通の近代化』(大瀧真俊)
何やらムズいタイトルがついていますが、ホリ・カケルさんのような方なら読みつつハマること間違いなし(と、思う)。
タイトルと著者名でググれば出てくるので、立命館大学や日本獣医学会雑誌の論文掲載ページで閲覧、DLできます。
(1)は(2)の前段のような感じで、「昭和初期に進展した台湾馬政を検証する前提作業として」「明治以降内地で先行した改良過程を概観」したものです。
当時の植民地での競馬振興は「帝国日本の軍馬政策」の一環ですけど、「満州」及び外地(朝鮮、台湾、樺太)に馬政計画を展開する中で、台湾馬政は「机上(の理想)」と「現実」があまりにもかけ離れていて、実態としてはかなり特殊な事例であったことが伺えます。
元々、馬が少ない。農耕は水牛が主役。1935年の馬匹数は朝鮮52,924頭、樺太13,434頭に対して台湾は347頭。
そこへ意気込みだけは勇ましく、台湾総督府のお偉方が「水牛撲滅論」など掲げて「馬」という新しい労働力を移入し、品種改良の名目で競馬も始めた。ところが.....
希望的観測が勝ちすぎた統計資料と計画倒れの植民地馬政に翻弄された台湾競馬ですが、そんな中にも命を賭して懸命に走った馬たちは確かにいて、彼らの堂々たる姿に胸が熱くなった人は少なくなかったでしょう。
歴史に埋もれさせるには惜しい馬と人の共生風景を、ライフワークとして伝える素晴らしい試み。応援します!
ガトーブリランテさん。キラキラしたフランスのお菓子のように可愛いお名前で、印象に残っています。相変わらず美人さんだこと。😍
ときわホースケアガーデンには、いろいろな動物が楽しそうに暮らしていますね。ブレーメンの音楽隊が結成できるくらい。
いっしょにホームページを見た姪っ子が、ニワトリのコスプレをしたシマエナガのようなピーチちゃんに一目惚れしました。