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ビカビカに輝く馬体!川越代表の匠の技で馬たちはうっとり


 

北海道新冠町にある、引退馬の牧場ノーザンレイク。

そこで毎日を過ごしているライター・佐々木祥恵が、

馬ときどき猫な日々を綴ります。

 


「サラブレッドは高貴な生き物」


川越は現役厩務員時代から、この意識を持って馬に接してきた。競走馬時代とは違ってノーザンレイクで放牧三昧の馬たちは、雨降りの後などは砂浴びをして全身泥まみれになって戻ってくる。けれども泥を取り除いて手入れをすると、ビロードのような皮膚の高貴で美しい姿が目の前に現れる。


愛馬キリシマノホシも、畜産業者の牧場からやって来た日の馬体は薄汚れていたが、愛情を注ぎ手入れをするたびに垢抜けていき、美しく気品のある馬へと変貌を遂げた。

「高貴な生き物」というのも、人間の勝手な思い込みかもしれない。それでも1頭1頭の馬に対して、精一杯敬意を抱いて世話を続けている。


2017年1月15日、私たちの元にやって来た日のキリシマノホシ


愛情を注ぎ、敬意を持って接するうちに、美しい馬に変身した


丹精込めてキリシマノホシの手入れをする川越(映画「今日もどこかで馬は生まれる」より)


「馬たちの誇りも守りたい」


川越がそう話すのを聞いたことがある。牧場の雑務に追われていることもあり、厩務員時代のような手入れはできない。それでも日々、ポイントを抑えて手入れを行い、数日に1度は丁寧なブラッシングで馬体を清潔かつ美しく仕上げる。これが川越の言う馬の誇りを守る方法の1つなのではないかと思っている。


毛ブラシと金ブラシを使ってブラッシング(タッチノネガイ)


前回も紹介した当牧場代表の川越のブラッシング動画。動きが早くてわかりづらいかもしれないが、ブラッシングをするたびに左手に持った金ブラシに毛ブラシをこすりつけているのがおわかりだろうか?これはブラシについた汚れを金ブラシで落としているのだ。この動作を繰り返しながら全身にブラシをかけていく。そしてブラッシングが終わると、馬体はビカビカに輝く。(ピカピカというより、ビカビカという表現がしっくりくる)


左は毛ブラシ、右が金ブラシ


この馬の手入れ技術が、担当馬のゼンノロブロイがイギリスのGIレースのインターナショナルSに出走した時、最もよく躾けられ、最もよく手入れされた出走馬の担当厩務員に贈られるベストターンドアウト賞受賞に繋がった。このやり方でブラッシングしている人は、川越が厩務員時代にも周りにほとんどいなかったが、中学卒業後に就職した明和牧場で身につけたこの技術を今に至るまでずっと守り続けている。


明和牧場では主に離乳を終えた当歳の厩舎に配属されていた。厩舎長は雨が降ればすぐに馬を馬房に戻し、晴れるとまた放牧した。雨で馬体を濡らして風邪を引かせたくないという考えだったようだ。

「昼夜放牧が主流になった今は古いやり方かもしれないけど、厩舎長はとにかく馬本位で考える人だった」(川越談)

時代とともに放牧の仕方をはじめ馬の飼養管理方法に変化が見られる。だが馬本位で考えるという厩舎長の教えは、川越の中で生き続けているし、馬を扱う上での原点と言ってもいいだろう。


牧柵の補修中


1日の流れを紹介した時にもチラッと触れたが、夜飼いを終えると実際に馬房に入って扇風機の風を体感し、スマホで天気予報を見て気温や風向きを確認する。馬が心地良く眠れるよう、扇風機の強弱や角度を調整するためだ。これもやはり「馬本位」という明和牧場の教えが根底にある。

これらの仕事ぶりを間近で見るにつけ、プロ意識の高さやこだわりを日々感じるているが、川越は自分のやり方を盲信しているわけではない。競走馬という若くて元気な馬の経験は豊富だが、高齢馬については経験不足だということを自覚している。だから自分の持っている引き出しを総動員して管理にあたり、わからないことは教えてもらう。


消灯後に扇風機の風の当たり方が気になり、再び馬房の中へ


運動量の多い競走馬はエネルギー源となる燕麦など濃厚飼料を与えるのだか、競馬を引退した馬には現役時代のような爆発的なパワーは必要ない。元気が良すぎると人も馬も怪我をする可能性も出てくる。ではどのような配合飼料が良いのか。牧場を開場した年(2020年)、引退した馬に合った配合飼料を知らなかったので、以前から交流のあった養老牧場・渡辺牧場の渡辺はるみさんに相談すると、下の写真の配合飼料を教えてくれた。なるべく与えたくないと思っていた燕麦が入っていない飼料だったので、これを使ってみることにした。


教えてもらった配合飼料


繁殖を引退して預託馬第1号として2020年9月にやって来たタッチノネガイは、前にいた牧場ではほぼ毎日20時間の放牧をこなしていたが、ノーザンレイクではその半分以下の放牧時間になる。それを考えると燕麦入りの飼料では元気を持て余すことになりそうだったので、今振り返ってみても渡辺さんに質問して良かったと思っている。ただこの飼料には燕麦のかわりに大麦が入っており、高齢馬に向かないケース(別の機会にまた説明できればと思う)もあるようなので、今後は飼料屋さんとも相談しながら、この配合飼料一辺倒ではなく馬に合わせて飼い葉を考えていくつもりだ。


タッチノネガイの鬣(たてがみ)をとかす川越


こだわりを持ちながらも自分の考えに固執せず、わからないことは誰か知識や経験のある人に聞く。これも1つのこだわりなのかもしれない。


(つづく)


 

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協力:ノーザンレイク・認定NPO法人 引退馬協会

文:佐々木 祥恵

編集:平林 健一

著作:Creem Pan

 


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1 commento


HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
09 ago 2022

「サラブレッドは高貴な生き物」

「馬たちの誇りも守りたい」

これらの言葉だけでもう胸がいっぱいになってコメントが書けない😭。

後ほど顔を洗って出直してきます。


【6時間後】

おはようございます(🫡キリッ!)

「高貴な生き物」。「誇りある生き物」。

現役の競走馬に対してそんな賛辞を惜しまない人は大勢いると思います。

川越さんは同じ言葉を引退馬たちに贈られた。感無量です。

廃用になる馬が真っ先に失うのは名前です。肥育場に行く馬には名前がありません。

代わりにもらうのは番号です。

私は馬が死ぬとき、どんな馬でも名前を呼んで別れを告げたいと思いました。

「○○、ありがとう」

「○○、がんばったね」

「○○、いつかまた会えるよ」

などなど。呼びかけて思いの丈を伝えながら見送りたい。(それでも心は折れるだろうけど)

引退競走馬の余生支援を始めたのはそんな理由からです。心のどこかで「馬たちの誇りを守りたい」と、自分も思ったのかもしれません。

この6時間、ただ寝ていたのではありません(も一度🫡キリッ!)

ゴッドハンド川越に匹敵する人がいるだろうかと、世界のグルームのお仕事映像を片っ端からブラウジングして、たった一人だけ見つけました。

アラン・デイヴィーズ。

名馬ヴァレグロを手がけ、2017年度FEI最優秀グルームに輝いた人物。

グルーミングの技術・哲学だけでなく、馬に対する愛情とリスペクト、その表し方、日頃の馬との接し方、すべて川越さんに相通ずるものがあります。真のホースマンに国境はないんですね。


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