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ホースセラピーは引退馬の活路となるか?|精神科医・井上悠里 2/2




引退馬の活路として


競馬を引退したサラブレッドをホースセラピーの場面で活かす考え方が広まりつつある。

井上先生は、ホースセラピーでサラブレッドを用いる利点として「早い時期から人を頼って生きることを知っている点」だと語った。


「ホースセラピーでは、馬が人とのつながりを持つことが求められます。

その点、育成牧場などでしっかり人との信頼関係を結んできた競走馬であれば、セラピーでも人と繋がりを持つことは得意なのかなと思います。ただ、サラブレッドは早くに母仔が離れ離れになってしまいます。理想をいえば、ある程度は母馬のもとで自然に育てられ、馬同士の社会性を学ぶことも精神的な成長のために必要ではないかとは思います」


サラブレッドは走るために生み出され、闘争心が植え付けられているともいう。こういった馬は、セラピーには向いていないのだろうか。


「確かに闘争心が強い馬や、人との距離感が難しい馬もいるのも事実です。

しかしそういった馬にも活躍の可能性があると考えています。

たとえば、難しい気性であることから、距離感を取るのが難しい馬がいたとします。

そういった馬を前にすることで、何を求めているのか、どう接するべきか、ことばの壁を超えて考えて行動することができます。そういう経験を重ねることで、対人関係や社会生活でも役立つ『相手をよく観察し考えを推察すること』『相手との距離感』を学ぶことができると考えられます。

したがって、特定の性格だから向いている、向いていないということはないと思います。

この他、身体のリハビリを目的とするならば、できるだけ体の歪みが少なく、左右のバランスがよいことが求められます。

またセラピーを受ける人の体格や身長に合わせて、体高で馬を選ぶこともあります。

メンタルの観点からいえば、対人的な傷つきがあり、不安が強い人にはなるべく穏やかな馬を選ぶ方が安心かもしれません。

ホースセラピーは対象者の課題に応じたプログラムを組むという性質上、その課題にふさわしい馬を選ぶことが求められます。言い換えれば、安全に配慮した上でセラピーを受ける人の課題に合致しているのであれば特定の種類や性格の馬でなくても活躍できると思います」


いかなる馬でも、必要とされる場面があれば活躍の道を得られる分野といえる。


しかし馬を用いるという性質上、適切な飼養管理や調教などの資金はどうしても必要にはなってくる。この課題について、井上先生は具体的な解決策の事例を語った。


写真:うまJAM 提供


「近年は行政の補助金や助成金と掛け合わせるケースがみられます。たとえばホースセラピーを『放課後等デイサービス』などの福祉事業所として運営し、人材確保や人件費の助成を得るというももがそのひとつ。利用者も福祉サービスの受給者証があれば、利用料の9割を自治体が負担するので、自己負担額は1割で通うことができます」


人を乗せられない馬の希望に


怪我や年齢を理由に人を乗せられない馬もいるだろう。特に井上先生は、そういった馬のセラピーの発展にも期待を寄せているという。


「人を乗せられない馬でも、その馬の個性や性格を必要とする場面があれば、どんな馬でも十分活躍の場を得られます。セラピーにおいては、必ずしも人を乗せる必要はありません。

そしてまさに今、世界的に乗馬を必要としないプログラムが発展しつつあります。

たとえば海外では心の課題に向き合うホースセラピーの一種である『EAP(馬介在心理的療法:Equine Assisted Psychotherapy)』が発展していますが、この中には乗馬をしないプログラムも作られています」


ホースセラピーの世界では、人の悩みに応じて求められる馬がいることがわかった。

競走の役目を終えた馬のみならず、セリで買ってもらえなかった馬。走る才能を認められなかった馬や気性の難しい馬。

ホースセラピーにおいては、いかなる馬でも「診察室でできないことができる」可能性がある。 

そのためにも医療専門職も含めた多くの人がホースセラピーを知り、実際に課題解決策として取り入れ、経験や知識を共有していくこと。そうすることでホースセラピーは発展し、ゆくゆくは人と馬の双方にとって大きな助けになるといえる。


「ホースセラピーの知見やエビデンスの収集は、まだまだ発展途上です。しかし『馬活動(馬に関する活動)』をしている人は、馬のセラピー効果を確かに実感しているのではないでしょうか。

ホースセラピーは人を乗せられない馬にとっても希望になると信じています。だからこそより多くの根拠や知見を集約して、さらなる発展を期待しています」



先生の夢は、『馬介在心理的療法(EAP)を実践する牧場を作ること』


写真:本人 提供


 
 

 

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取材協力:

井上 悠里

まな星クリニック


取材・構成・文:手塚 瞳

協力:緒方 きしん

画像提供:井上悠里 うまJAM

監修:平林 健一

著作:Creem Pan


参考文献

「ホースセラピーサポートブック」うまJAM


 


監修者プロフィール:平林健一
(Loveuma.運営責任者 / 株式会社Creem Pan 代表取締役)

1987年、青森県生まれ、千葉県育ち、渋谷区在住。幼少期から大の競馬好きとして育った。自主制作映像がきっかけで映像の道に進み、多摩美術大学に進学。卒業後は株式会社 Enjin に映像ディレクターとして就職し、テレビ番組などを多く手掛ける。2017年に社内サークルとしてCreem Panを発足。その活動の一環として、映画「今日もどこかで馬は生まれる」 を企画・監督し、2020年に同作が門真国際映画祭2020で優秀賞と大阪府知事賞を受賞した。2021年に Creem Pan を法人化し、Loveuma. の開発・運営をスタートする。JRA-VANやnetkeiba、テレビ東京の競馬特別番組、馬主協会のPR広告など、 多様な競馬関連のコンテンツ制作を生業にしつつメディア制作を通じた引退馬支援をライフワークにしている。


 

 

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1 Comment


HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
Aug 08, 2023

“T” の有る無しに注目しました。


AAA=Animal Assisted Activity (動物介在活動)

AAT=Animal Assisted Therapy (動物介在療法


皆さん、違いはわかりますよね?

AAAとは、動物が生まれ持つ共感能力やアニマル・ヒーリング効果に期待して、クライアントのQOL(生活の質)を向上させることを目的とする活動。必ずしも明確なプログラムや医療関係者の関与は求められません。

たとえば、温順なボランティア犬を連れて老人ホームやホスピスなどを訪問し、その結果、ワンコと触れ合った入所者の情緒が安定したり、表情や発話が豊かになってコミュニケーション能力が上がったりすれば、それはそれで立派な活動成果。😊👍


実際、日本でいう「アニマルセラピー」のほとんどは、非営利の団体や個人がAAAのカテゴリーで行っているボランティア活動ではないかと思います。

ただし、近年は大学病院や精神科心療内科のある医療機関で、AATを積極的に取り上げるところも出てきました。北里大学メディカルセンターでは10年ぐらい前から「メディカルドッグ🦮」を採用していますね。


AATには専門的な「治療」という目的があります。

そのため必ず人間の医療に従事する有資格者が関与して活動を行います。具体的には、医師、看護師、作業療法士、理学療法士などが関わります。

受療者個人の症状とその治療目的に沿ったプログラムを作成することと、治療の効果判定が必須です。

(「動物介在療法士」はまだ独立した国家資格とは認められてないようですが、今後は需要増だと思いますので認定は時間の問題でしょう)


アニマルの “A” をウマの “E” に変えても基本は同じ。

井上先生は、あくまでもプロフェッショナルとして「ホースセラピー🐎」の拠点を作りたいと思っておられる。

有資格の医療従事者として、EAT (Equine Assisted Therapy:馬介在療法)の一分野であるEAP(Equine Assisted Psychotherapy:馬介在心理療法)を実践できる施設(牧場)の開設を目指しておられる、というわけですね。🙌


JRA馬事公苑宇都宮事業所は、馬事公苑が世田谷に戻った後も引退競走馬関連施設として継続利用されるそうです。ここの敷地内、または近隣に、ホースセラピー施設を開くなんてどうでしょう? JRAに事業計画を持ち込んでみるとか?

EAT/EAPの効果に関する知見とエビデンスの収集も、JRAの協力があれば捗るんじゃないかと思います。📄📃📑📈📊📉

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