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「引退馬を事業で生かす」TCC Japan代表取締役・山本高之 1/3




今回は株式会社TCC Japan代表取締役の 山本高之さん


 馬を1頭繫養するには、経費がかかる。その一方で、競走から引退後、種牡馬、繁殖牝馬、乗馬などセカンドキャリアと称される役割を与えられても、年齢を重ねるごとに利益を生み出すことが難しくなってくるという現実がある。引退馬の余生を案ずる人は多いが、いざ競馬産業から出た後のサラブレッドが生きていく道は少ない。そうした中、事業活動として引退馬支援の取り組みを行っているのがTCC Japanだ。今回は同社代表取締役の山本高之さんに話を聞いた。



写真:株式会社TCC Japan代表取締役 山本高之さん(写真:Creem Pan)


 山本さんは、JRA栗東トレーニングセンターのある、滋賀県栗東市で生まれ育った。大学を卒業するまで栗東市で暮らしていたが、競馬とは、ほぼ無縁の環境で過ごしてきた。就職をして大阪に移り、経営コンサルティング会社の船井総研や東京のベンチャー企業を経て、2006年1月に起業した。

 「就職活動の段階から起業したいと思っていました。ただ僕の場合、やりたいことがあって起業したのではなく、起業して事業家になりたいという思いで会社を起こしたので、中身が空っぽといいますか…」

 自分が本当にしたい仕事は何なのか。それがフラストレーションになり、やるせなさを常に抱えて事業を続けていた。

 「東京で栗東出身だと話すと、馬がいてトレセンがあるところでしょ、とよく言われました。栗東で生まれ育っていても、馬を見たことも触ったこともなかったですし、地元ではどちらかと言うと、ネガティブなイメージを植え付けられていました。でも地元以外では、トレセンがあって馬がいるところだと、知っていてくれる人がいる…。そのギャップがすごくもったいないと思っていたんですよね」

 このことがフラストレーションを抱えた山本さんの人生を転換させるきっかけの1つとなった。

 競馬とはほぼ無縁の環境と前述したが、山本さんが18歳の時に福永祐一騎手の妹の妃呂己さんと知り合い、兄の祐一騎手とも交流ができた。妃呂己さんとは山本さんが26歳で起業したのと同時に結婚した。

 「兄が関東圏でGIに騎乗する時に応援に駆け付けたり、食事に行ったりもしましたね。妻を通じて、競馬とは若干関係ができたという感じです」

写真:山本高之さんと福永祐一騎手(提供:TCC Japan)


地域の力


 これもまた人生を転換させる契機の1つに数えられるが、最大の転機は2011年の東日本大震災の復興ボランティアに参加したことだった。今の仕事が自分がしたい事業ではないと思いつつ、かと言って何をしたら良いのかもわからない。家族を抱えて簡単に方向転換もできないという葛藤が、山本さんにはあった。  「僕がボランティアに行ったのは、震災から2か月たったゴールデンウィーク明け頃でした。ボランティアとして動いていたのは、その頃はほとんど被災した地域外から来ていた人たちでした。被災地では高齢者が多くて問題もいろいろあって、ボランティアの人々に頼っているような面も見受けられ、地域にもっとエネルギーがないと自ら復興していくというのは時間がかかりそうだなと感じましたし、復興には地域の力というのがとても大事になってくるのだろうなと実感しました」  被災地での経験が葛藤を続けてきた山本さんの背中を押すことになる。  「僕も故郷に戻って、地域力を高めることに貢献できる仕事がしたいと思いました」  山本さんは、自分の生まれ育った栗東に目を向けた。前述した通り、競馬産業は地元にとって距離の遠い存在になっていて、それがとても、もったいないことのように思えた。  「栗東は、それ以外の地域の人々にとっては、やはり「馬」というイメージだろうと。競馬がなかったら、『りっとう』とはまず読める人はいないでしょうしね。でも競馬や馬を通じて、多くの人が栗東という存在を知っていますし、必然的に馬に関わる分野をもっと地域資源として活用していくことで、栗東のブランディングに繋げられたらと思いました」  山本さんが考えたのは「馬と福祉」だった。  「これをテーマに、栗東に戻って活動していこうと思いました。その福祉というのは、広義の意味の福祉で、高齢者の介護福祉や障がい者福祉だけではなくて、住んでいる方々が暮らしやすい社会になり、馬がそこに活用されたり、馬に何らかの役割を作っていければ、栗東の地域力が上がっていくのではないかと考えました」  こうして山本さんは、故郷である栗東市に戻ることを決意。2014年には栗東に会社を移転させた。これがのちのTCCに繋がっていくことになる。



このコンテンツは、映画「今日もどこかで馬は生まれる」公式サイト内「引退馬支援情報」ページにて2021年6月から12月にかけて制作・連載された記事の転載になります。


 

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1 comentario


HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
20 jul 2022

 即物的な見方をするなら、生きていても死んだ後も馬は丸ごと「資源」です。

ただ、生きているうちに役に立ってくれることの方が断然多いので、不用意に命を奪っては本当にもったいない。「馬が好きだから長生きしてほしい」という殊勝な気持ちと同じくらい、「役立つものを無駄に捨てるのはバカ」という欧州貧民型倹約精神が、自分の引退馬支援の動機になっているような気がします。


 引退馬が貢献できる事業の一つとして、バイオマス発電に期待しています。馬房の使用済み敷料などを利用した発電です。それと、農水省は馬糞堆肥を使う農業を奨励してほしい。土がふかふかになって美味しい野菜が育ちます。ロシアの天然ガスや肥料に頼らない国にしましょうよ。


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