「引退馬を事業で生かす」TCC Japan代表取締役・山本高之 2/3
スタートアップ
山本さんがまず行ったのは、栗東市で馬を活用するグランドデザインの企画書を作成することだった。 「福祉や教育、観光などの分野に馬を地域資源として活用していきましょうという計画書を作って、市役所をはじめ教育委員会などに提案したのですが、『一応話は聞いたよ』という感じで、一切相手にはされなかったですね。」 約50年前に栗東トレセンができ、様々な人が馬を使った取り組みを計画してきたが、競馬関係者以外は馬を知っている人はほとんどいない。 「ならどこに頼ればいいかとなると、JRAしかないんですよ。でもJRAは『トレセンは観光施設ではありません』の一点張りで、ずっと平行線だったようです」 そうした中、山本さんが最初に取り組んだのが、地域の障がいを抱えた子供たち向けにホースセラピーを取り入れた放課後等デイサービス「PONY KIDS」の開所だった。 「議員さんなど協力してくださる方は少なからずいて、これまで馬を活用する企画はあっても、JRAを動かさないと市も動けないということで、企画はほとんど実現できなかったというのも聞いていました。ですので、小さい実績を積み重ねていくのが大事だと思っていました」 「PONY KIDS」は、2頭のポニーから始まった。子供たちの受け入れ枠はすぐに埋まり、需要があることが目に見えてわかったのは収穫だった。 「栗東の人って、知り合いを辿っていくとトレセンの人に繋がるんですよね。トレセンの人は競走馬しか知らないので『いやそんな、馬で子供たちのセラピーなんて』ってなるんです。でも現場を見てもらうと、馬ってこんなに可愛らしいんだ、というのがわかってもらえて、どんどん広まりました」
ホースセラピーの様子(提供:TCC Japan)
実績が積み重なっていくうちに、見学や視察に訪れる人が増えた。 「市役所やJRAの方も見学にいらっしゃいましたし、徐々に活動を認めてもらえるようになりました」 2015年9月に始動した障がいのある子供たち向けの放課後デイサービスが、ある程度、軌道に乗ってきた、2016年4月には引退競走馬を支援する「引退馬ファンクラブTCC」を発足させている。 「TCCが発足して1年ほどたってから、JRAで引退馬支援の組織(引退競走馬に関する検討委員会)ができました。TCC以外にも、僕が骨子を作って角居勝彦元調教師の団体が主となって活動していたサンクスホースプロジェクトというのがあるのですけど、その仕組みをJRAが賞賛してくれたんです」 JRA内に設置された「引退競走馬に関する検討委員会」は、引退馬を繫養する施設などの調査を進めていた。そのため山本さんが関わる活動に対してJRAが動いたのはホースセラピーの方ではなく、引退馬支援のTCCの方であった。だがJRAが動いたという事実は大きく、それによって行政にも認められるようになった。
元JRA調教師・角居勝彦さんと山本高之さん(提供:TCC Japan)
このコンテンツは、映画「今日もどこかで馬は生まれる」公式サイト内「引退馬支援情報」ページにて2021年6月から12月にかけて制作・連載された記事の転載になります。
監修者プロフィール:平林健一
(Loveuma.運営責任者 / 株式会社Creem Pan 代表取締役)
1987年、青森県生まれ、千葉県育ち、渋谷区在住。幼少期から大の競馬好きとして育った。自主制作映像がきっかけで映像の道に進み、多摩美術大学に進学。卒業後は株式会社 Enjin に映像ディレクターとして就職し、テレビ番組などを多く手掛ける。2017年に社内サークルとしてCreem Panを発足。その活動の一環として、映画「今日もどこかで馬は生まれる」 を企画・監督し、2020年に同作が門真国際映画祭2020で優秀賞と大阪府知事賞を受賞した。2021年に Creem Pan を法人化し、Loveuma. の開発・運営をスタートする。JRA-VANやnetkeiba、テレビ東京の競馬特別番組、馬主協会のPR広告など、 多様な競馬関連のコンテンツ制作を生業にしつつメディア制作を通じた引退馬支援をライフワークにしている。
JRAは馬(の排泄物)を使ったバイオマス発電の普及には動いてくれないでしょうか?
今年の6月、安田記念の週だったか、東京競馬場の必要電力を全て代替エネルギーで賄うという試みがあり、太陽光や風力に加えてバイオマス発電も採用されました。
これには先例があり、たとえば2017年10月にフィンランドのヘルシンキで開催された国際馬術大会では、スコアボードから照明まで、全ての必要電力が馬糞・敷料を主燃料とするバイオマス発電で賄われました。大会出場予定の約250頭が使用する臨時厩舎の馬房に電力会社がウッドチップを提供し、馬糞ごと回収して他のバイオ燃料と混ぜて燃やすことで電力を供給したのです。
大会前に、上記250頭から135トンのボロ付きチップが生産される見込みと試算されていました。「大会に必要な電力は140メガワット。これをまかなうには、14頭の馬の1年分の排泄物が必要。科学者の推定によると、馬1頭の年間排泄量は9トン前後とされる。」(オスロ、2017/10/04、ロイター)
実は栗東トレセンにもバイオマス発電施設があるとか。(都市伝説でないことを祈る)
将来は、現役競走馬も引退競走馬も総動員で、東西トレセンと全国の競馬場と馬事関連施設の必要電力の90%以上を馬糞発電で賄えるようにしてはどうでしょう? また、馬産地には大規模なバイオマス発電プラントを作って、リーズナブルな料金で牧場に電気を提供できるようにしては?(もちろん一般家庭にも買ってもらいます)