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「サラブレッドは乗馬に不向き?」馬術競技選手・増山大治郎 1/3




今回は馬術競技選手の増山大治郎さん


 今回は競走馬としてのステージを終えた馬のセカンドキャリアとして、繁殖用(種牡馬、繁殖牝馬)以外に最もポピュラーとも言える「乗馬」について考えてみる。乗馬用に生産された中間種に比べて、サラブレッドは乗馬に向かないとよく言われているが、実際はどうなのか。ジュニア時代から多くのサラブレッドに跨り、現在も競馬を引退したサラブレッドのリトレーニングを手掛けて競技会にも出場している増山大治郎さんに話を聞いた。

 増山さんは昭和58(1983)年生まれの現在37歳。茨城県にある乗馬クラブ、筑波スカイラインスティーブルの代表を務めている。


写真:筑波スカイラインスティーブル・増山大治郎さん(写真:本人提供)


 生まれも育ちも栃木県小山市で、父は元々寿司屋を営んでいた。気が付けば父は兄と共に乗馬にのめり込んでおり、増山さんが小学校低学年時にいきなり乗馬クラブを立ち上げていた。

 「学校ではサッカーをやっていましたが、せっかく馬に乗る施設があるのだから、お前も乗れと父に言われて乗馬を始めました」

 兄の増山誠倫さんは、当時既に障害馬術でジュニアの日本一に輝いていて、憧れの存在でもあった。

 「サッカーもさほどうまくはなかったですし、それなら日本一になって世間から注目を浴びるような競技をしてみたいと思って、小学校5年生から本格的に乗馬に取り組み始めました」

 自分の家が乗馬クラブという環境や父のサポートもあったが、乗馬センスも持ち合わせていたのだろう。中学、高校時代には、ジュニアの大会で好成績を収めるようになっていた。2009年には、日本で行われるワールドカップの予選である日本リーグで優勝。アメリカ・ラスベガスで開催されたファイナル大会に出場を果たした。

 「前年には兄が出場していたので、2年連続で兄弟で出場することができました」

 ちなみに兄が騎乗したトップギアⅠ(ファースト)(競走馬名:ターボギア 父:ビゼンニシキ 母父:タカウォーク)は元競走馬で、日本からワールドカップに出場した馬としては唯一の引退競走馬でもある。その後、増山さんは独立して、茨城県土浦市を経てかすみがうら市に筑波スカイラインスティーブルを設立。一経営者、競技者、指導者として活動をしながら、茨城県の県強化委員として後身の育成にも携わっている。

 また増山さんは近年、元競走馬のスタークソックス号(父:メジロマックイーン 母父:Danzig)とコンビを組み、第12回JRAジャパンブリーディングホースショーという大会で優勝を果たしている。ちなみに同馬は一昨年もこの大会に優勝し、2連覇を達成した昨年は21歳。競技馬としては高齢ながら活躍をしている。


写真:スタークソックス号と増山大治郎さん(写真:©信田 尚吾)


乗馬クラブ・筑波スカイラインスティーブル


 筑波スカイラインスティーブルの会員は、6割が技術を向上させて馬術選手として成果を挙げたい人、残り4割が健康維持を兼ねた趣味の人、という割合になっている。馬の種類に関して尋ねると、  「お客様からの預託馬もあわせて、僕は普段10頭ほど運動をさせているのですが、そのうち半分はサラブレッドで、あとの半分は中間種やヨーロッパから輸入した馬です」  乗馬クラブによっては、1頭の練習馬が1日に数回レッスンに出る場合もある。大人しく乗りやすい馬は人気が高いので、出番が多くなるケースもあるようだ。筑波スカイラインスティーブルでは、会員が乗る練習馬たちには負担をかけないというのが方針の1つにもなっている。  「1頭の馬がレッスンに出るのは、1鞍か多くて2鞍です。1鞍の中で、お客様のニーズにこたえられるようなレッスンをするという形で行っています」  レッスンも部班(複数の人馬が一緒にレッスンを受けること)ではなくマンツーマンを基本とし、細部まで目が届くよう心がけている。  また競技会の出場を目指している会員は、障害飛越の練習を常に行うわけではない。  「毎日障害を飛んでも上手にはならないですし、やはり基礎が大事なので、大人しく安全な練習馬で基礎練習をしっかり乗ってもらうようにしています」  また、JRA美浦トレーニングセンターから割と近いという立地条件もあり、障害の初期調教の依頼もある。  「ただ競馬の障害に関してはプロではないので、調教師さんとも相談しながら、障害を怖がらないようにすることと、飛び方や踏み切り方だけを教えるようにして、馬術の障害飛越寄りにならないようにしています」


馬の仕入れ方


 増山さんのクラブに来る馬は、主に競馬を引退したサラブレッドと海外からの輸入馬だ。前述した通り、父の経営する乗馬クラブ時代に乗っていたのは引退競走馬が主だったことからも、以前は乗馬としてのサラブレッドの需要がかなりあったことがうかがえる。だが最近では、競技会でも外国からの輸入馬の姿が目につくようになってきた。  「兄がトップギアⅠでワールドカップに出場したように、僕がまだ小中学校の時は、サラブレッドでも150cmぐらいの高さの障害飛越競技に出ている馬は結構いました。当時と今では、コースの難易度などいろいろと変わってきているので、一概には比較はできないですけど、それでも多かったと思います。でも最近は、140㎝や150㎝と高いクラスに出場するサラブレッドは少なくなりました」 増山さんはその要因を次のように分析する。  「20数年前以前は、海外から馬を輸入するのはかなり大変だったんです。今ならインターネットが普及しているので、すぐに映像を見ることができますけど、ネットがなかった時代には撮影したビデオテープを海外から送ってもらったり、実際に渡航して買いたい馬に乗りに行くしかなかったですから。それがかなり大変な作業だったのですが、今はインターネットのお蔭でとても容易になっています」  このように一昔前は海外の馬を購入するには障壁があったため、競馬を引退した競走馬を乗馬用、競技用に調教をして、障害が高いクラスの競技にも出場していた。だが以前のような障壁もなくなると、事情も変わってくる。  「サラブレッドにも才能のある馬がたくさんいるのかもしれないですけど、海外から買ってきた方が早いと考える人が増えたのだろうなと、個人的には思います」  つまり障害飛越用に調教された海外の馬の方がかかる手間も少ないという理由から、輸入馬の割合が増えているということなのだろう。



このコンテンツは、映画「今日もどこかで馬は生まれる」公式サイト内「引退馬支援情報」ページにて2021年6月から12月にかけて制作・連載された記事の転載になります。


 


監修者プロフィール:平林健一
(Loveuma.運営責任者 / 株式会社Creem Pan 代表取締役)

1987年、青森県生まれ、千葉県育ち、渋谷区在住。幼少期から大の競馬好きとして育った。自主制作映像がきっかけで映像の道に進み、多摩美術大学に進学。卒業後は株式会社 Enjin に映像ディレクターとして就職し、テレビ番組などを多く手掛ける。2017年に社内サークルとしてCreem Panを発足。その活動の一環として、映画「今日もどこかで馬は生まれる」 を企画・監督し、2020年に同作が門真国際映画祭2020で優秀賞と大阪府知事賞を受賞した。2021年に Creem Pan を法人化し、Loveuma. の開発・運営をスタートする。JRA-VANやnetkeiba、テレビ東京の競馬特別番組、馬主協会のPR広告など、 多様な競馬関連のコンテンツ制作を生業にしつつメディア制作を通じた引退馬支援をライフワークにしている。


 

 

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2 Comments


HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
Sep 15, 2022

英国在住の友人との電話:

「やっぱ、競馬してたサラブレッドで障害馬術はムズいよね。トップギア1stやシェーンヴァルトなんて例外中の例外だよね」

「え? だって、フツーに飛んでるじゃん」

「いや、だから、難易度の高い大きな大会に出て勝つのはムズ。。。」

「毎年出てるし、勝ってるじゃん。あれって超難関だと思うけど」

「あれってどれよ?」

「グランドナショナル」

あーーーーっ、そうでした! なんという盲点!

グランドナショナルに出る馬もサラブレッドなんだ!!!(別の生き物だと思っていた😅)

その後、BTRC(British Thoroughbred Retraining Centre:英国サラブレッド・リトレーニング・センター)にHallo Dandy(ハローダンディー)というサラブレッドがいたことを知りました。

1984年のグランドナショナル優勝馬で、引退後は狩猟用に貸与されていたのですが、20歳の頃、ろくに世話もされずに瀕死の状態でほったらかされていることが発覚し、元のオーナーが直ちに彼を救出してBTRCに無償譲渡。スタッフの手厚い看護で一命を取り留め、健康を取り戻しました。奇跡の復活ストーリーはメディアにも取り上げられ、33歳で亡くなるまでBTRCの看板馬として引退競走馬の支援の輪を大きく広げることに貢献したとか。

サラブレッドのポテンシャルを見くびってはダメですね。反省また反省。

(ヒトから見て)地獄のような絶望的な状況に置かれていても、最後までしぶとくたくましく、生きることをあきらめない。美しい姿の中にそんなド根性を秘めた馬なんですね。


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HisMajesty Graustark
HisMajesty Graustark
Jul 15, 2022

 寿司マイスターからライダーへの華麗なる転身。(屋号は「鞍寿司」だったのか?)お父様の伝記を書いてみたいですね。

 サラブレッドは「収縮」と「がまん」が苦手。レース前のパドックでは、無駄に華麗なパッサージュやアピュイエ(ハーフパス、横歩)を披露している子もたまに見かけるので、動き自体はできないわけではないのでしょうが、競技会でさあやってみろと言ってもしない。ラチを難なく飛越できる子でも、横木オクサーを見せるとこれは飛ぶものではなくよけるものだと瞬時に判断して人にもそれを根気よく教えようとする。(もちろん例外はありますが)

 一般的には、馬術競技に特化した “プロ” 集団である中間種とオリンピックで互角に戦うのはほぼ無理ゲー(ぐらいに思った方がいい)。悔しいけれど、やはり餅は餅屋、寿司は寿司屋なのです。

 かくなる上は、引退競走馬のための新しい競技の創出が求められます。単に従来の馬術競技のレベルを下げるということではなくて、サラブレッドという品種の特性(素軽さ、瞬発力、スピード、ヤンチャ)を活かすエンタメ要素たっぷりの新種目。どなたか考えてみませんか?


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